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有責配偶者からの離婚請求

昭和62年9月2日 最高裁大法廷判決

(民集41巻6号1423頁)

解説

 この判例は,離婚原因について専ら責任のある有責配偶者からの離婚請求が認められる場合について判示したものです。

 最高裁は,有責配偶者からの離婚請求が認められる要件として,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること,②その間に未成熟の子が存在しないこと,③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がないことの3つを指摘しました。

 もっとも,これらは,信義則に照らして許容できるかどうかを判断するための要件ですので,どれくらいであれば,「長期間」にあたるの?「未成熟子」がいたら離婚はできないの?ということではなく,個別の事案に応じ,さまざまな事情を考慮して,信義則に反しないといえるかどうかを十分検討する必要があります。

事案の概要
  1.  XとYは,昭和12年2月1日婚姻届をして夫婦となったが,子が生まれなかったため,同23年12月8日訴外Aの長女B及び二女Cと養子縁組をした。

  2.  XとYとは,当初は平穏な婚姻関係を続けていたが,Yが昭和24年ころXとAとの間に継続していた不貞な関係を知ったのを契機として不和となり,同年8月ころXがAと同棲するようになり,以来今日まで別居の状態にある。

     なお,Xは,同29年9月7日,Aとの間にもうけたD(同25年1月7日生)及びE(同27年12月30日生)の認知をした。

  3.  Yは,Xとの別居後生活に窮したため,昭和25年2月,かねてXから生活費を保障する趣旨で処分権が与えられていたX名義の建物を24万円で他に売却し,その代金を生活費に当てたことがあるが,そのほかにはXから生活費等の交付を一切受けていない。

  4.  Yは,右建物の売却後は実兄の家の一部屋を借りて住み,人形製作等の技術を身につけ,昭和53年ころまで人形店に勤務するなどして生活を立てていたが,現在は無職で資産をもたない。

  5.  Xは,精密測定機器の製造等を目的とする二つの会社の代表取締役,不動産の賃貸等を目的とする会社の取締役をしており,経済的には極めて安定した生活を送っている。

  6.  Xは,昭和26年ころ東京地方裁判所に対しYとの離婚を求める訴えを提起したが,同裁判所は,同29年2月16日,XとYとの婚姻関係が破綻するに至ったのはXがAと不貞な関係にあつたこと及びYを悪意で遺棄してAと同棲生活を継続していることに原因があるから,右離婚請求は有責配偶者からの請求に該当するとして,これを棄却する旨の判決をし,この判決は同年3月確定した。

  7.  Xは,昭和58年12月ころYを突然訪ね,離婚並びにM及びNとの離縁に同意するよう求めたが,Yに拒絶されたので,同59年東京家庭裁判所に対しYとの離婚を求める旨の調停の申立をし,これが成立しなかったので,本件訴えを提起した。
     なお,Xは,右調停において,Yに対し,財産上の給付として現金100万円と油絵1枚を提供することを提案したが,Yはこれを受けいれなかつた。

判旨
  1. 主文
    原判決を取り消す。
    本件を東京高等裁判所に差し戻す。

  2. 理由
     民法770条の立法経緯及び規定の文言からみる限り,同条1項5号は,夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり,その回復の見込みがなくなった場合には,夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであつて,同号所定の事由(以下「5号所定の事由」という。)につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない。
     他方,我が国においては,離婚につき夫婦の意思を尊重する立場から,協議離婚(民法763条),調停離婚(家事審判法17条)及び審判離婚(同法24条1項)の制度を設けるとともに,相手方配偶者が離婚に同意しない場合について裁判上の離婚の制度を設け,前示のように離婚原因を法定し,これが存在すると認められる場合には,夫婦の一方は他方に対して裁判により離婚を求めうることとしている。
     このような裁判離婚制度の下において5号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば,自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ,相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり,ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであって,右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでないことはいうまでもない。

     思うに,婚姻の本質は,両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるから,夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに,夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり,その回復の見込みが全くない状態に至った場合には,当該婚姻は,もはや社会生活上の実質的基礎を失っているものというべきであり,かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは,かえって不自然であるということができよう。
     しかしながら,離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから,離婚請求は,正義・公平の観念,社会的倫理観に反するものであってはならないことは当然であって,この意味で離婚請求は,身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。
     そこで,5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において,当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては,有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが,相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情,離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子,殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係,たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず,更には,時の経過とともに,これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合って変容し,また,これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから,時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
     そうであってみれば,有責配偶者からされた離婚請求であっても,夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及びその間に未成熟の子が存在しない場合には,相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り,当該請求は,有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。
     けだし,右のような場合には,もはや5号所定の事由に係る責任,相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく,また,相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は,本来,離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。

     本訴請求につき考えるに,XとYとの婚姻については5号所定の事由があり,Xは有責配偶者というべきであるが,XとYとの別居期間は,原審の口頭弁論の終結時まででも約36年に及び,同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり,しかも,両者の間には未成熟の子がいないのであるから,本訴請求は,前示のような特段の事情がない限り,これを認容すべきものである。
     したがって,右特段の事情の有無について審理判断することなく,Xの本訴請求を排斥した原判決には民法1条2項,770条1項5号の解釈適用を誤った違法があるものというべきであり,この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
     そして,本件については,右特段の事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるうえ,Yの申立いかんによっては離婚に伴う財産上の給付の点についても審理判断を加え,その解決をも図るのが相当であるから,本件を原審に差し戻すこととする。
     よって,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。

 事案の概要,判旨は,そのまま全文を引用したものではなく,読みやすいように編集してあります。