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有責配偶者からの離婚請求と別居期間

平成2年11月8日 最高裁第一小法廷判決

(裁判集民161号203頁)

解説

 この判例は,昭和62年9月2日の最高裁大法廷判決で示された,有責配偶者からの離婚請求が認められる3要件(①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること,②その間に未成熟の子が存在しないこと,③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がないこと)のうち,①に関して判示したものです。

 本判決で,最高裁は,別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、別居後の時の経過が当事者双方についての諸事情に与える影響をも考慮に入れるべきものであると指摘しました。

事案の概要
  1.  XとYとは、昭和33年5月7日婚姻し、昭和36年6月2日に長男を、昭和39年4月3日に二男をそれぞれもうけた(原審の口頭弁論が終結した平成元年1月18日において、Xは52歳、Yは55歳、長男は29歳、二男は24歳である。)。

  2.  Xは、婚姻後の約3年間はYの父方の仕事を手伝っていたが、その後、Yと共に独立して同種の商売を始めた。
     しかし、商売のやり方について、XとYとの意見が異なることが多く、口論が絶えず、XはYが商売から手を引いて専業主婦となることを望み、Yは昭和44年ころから商売への関与を止めた。
     Xは、昭和47年ころ、建物の建替えを計画していたところ、Yから反対されたため、これを断念した。
     Xは、昭和56年夏ころ、Yに対して「一人になって暫く考えたい、疲れた。」と言って、Xと同居していた家を出て別居し、当初の2,3か月間は週に2日位はY方に帰って来ていたが、その後はこれも止め、現在に至っている。

  3.  Xは、上記別居の前から他の女性と情交関係があり、上記別居後に同人と同棲するようになり、間もなく同人とは別れたものの、Y及び子らに自己の住所を明かさず、Yとの連絡もXの仕事上の事務所にさせている。

  4.  Xは、Yに対する生活費として、昭和61年2月ころまでは月額60万円を、その後は35万円を交付してきたが、YがX名義の不動産の持分2分の1に対して処分禁止の仮処分の執行をしたことに立腹して、昭和62年1月から上記金員の交付を中止した。
     しかし、その後、婚姻費用分担の調停が成立し、Xは昭和63年5月からはYに対して月額20万円を送金しており、Yは、ほかに内職により月額6万円の収入を得ている。

  5.  Xは、従来、離婚に伴う財産関係の清算として、Yの居住しているX名義の土地建物を処分し、抵当権の被担保債務を弁済した残金をYと折半するという提案をしていたが、原審の和解においては、処分代金から税金、手数料等の経費を控除した残金を折半し、抵当権の被担保債務はXの取得分の中から弁済するとの譲歩案を示している。

  6.  長男は、大学院を修了して、現在、国費留学生として留学中であり、二男は、大学に在学中であり、その学費等は、本人のアルバイトのほかYの収入から賄われており、両名との離婚については、Yの意思に任せる意向である。

判旨
  1. 主文
    省略

  2. 理由

    1. 原審は、右事実関係に基づき、次の理由により上告人の離婚請求を棄却した。

      1.  XとYとの婚姻関係は既に破綻し、回復の見込みはないが、その原因は、Xが守操義務及び同居義務に違反して、他の女性と情交関係をもち、Yと別居して当該女性と同棲するようになり、間もなく同人とは別れたものの、その後もYには住所さえ知らせず別居を継続していることにあるから、本件における婚姻関係の破綻についての責任は、専らXの側にある。

      2.  XとYとの間の子らは、いずれももはや未成熟子ということはできない。
         また、XからYに対しては、財産関係の清算について具体的で相応の誠意があると認められる提案がされており、離婚が認容されこの提案が実行された場合には、現在の生活と比べて、Yが社会的・経済的により不利な状態に置かれるとは考えられない。
         しかし、Yは、現在においても、上告人との婚姻関係の継続を希望しており、本件での約8年の別居は、当事者の年齢、同居期間と対比して考えた場合、いまだ有責配偶者としてのXの責任とYの婚姻関係継続の希望とを考慮の外に置くに足りる相当の長期間ということはできない。
         かえって、現段階においてYの意に反してXからの離婚請求を認めることは、自ら婚姻関係破綻の原因を作出したXがこれを理由として離婚の請求をすることを安易に承認する結果となって、相当でない。
         

    2.  しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

      1.  有責配偶者からの民法770条1項5号所定の事由による離婚請求の許否を判断する場合には、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだかどうかをも斟酌すべきものであるが、その趣旨は、別居後の時の経過とともに、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化することを免れないことから、右離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきであるとすることにある(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六号一四二三頁参照)。
         したがって、別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、右の点をも考慮に入れるべきものであると解するのが相当である。

      2.  前記事実関係によれば、XとYとの別居期間は約8年ではあるが、Xは、別居後においてもY及び子らに対する生活費の負担をし、別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し、更に、離婚を請求するについては、Yに対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており、他方、Yは、Xとの婚姻関係の継続を希望しているとしながら、別居から5年余を経たころにX名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するに至っており、また、成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たるYの意思に任せる意向であるというのである。
         そうすると、本件においては、他に格別の事情の認められない限り、別居期間の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのである(当審判例(最高裁昭和六二年(オ)第八三九号平成元年三月二八日第三小法廷判決・裁判集民事一五六号四一七頁)は事案を異にし、本件に適切でない。)。
         

 事案の概要,判旨は,そのまま全文を引用したものではなく,読みやすいように編集してあります。