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婚姻関係破綻後の不貞行為

平成8年3月26日 最高裁第三小法廷判決

(民集50巻4号993頁)

解説

 この判例は,配偶者が不貞行為を行った場合であっても,その当時すでに婚姻関係が破綻していた場合には,相手配偶者に対する違法な権利侵害はないとの判断を示したものです。

 不貞行為は,民法上離婚原因とされており(民法770条1項1号),慰謝料の発生原因となる事実であることは,ご存知の方も多いのではないでしょうか。

 慰謝料は,不法行為に基づく損害賠償請求権であり,これが発生するためには,違法な権利侵害が要件となります。

 本判例によれば,不貞行為当時,すでに婚姻関係が破綻していた場合には,違法な権利侵害がないとしていますから,この場合には,慰謝料の支払義務も発生しないということになります。

 では,婚姻関係が破綻していた場合とは,どのような場合をいうのでしょうか。詳細は本サイトの他のページに譲りますが,本件で最初の不貞行為があった時期よりも前からすでに,夫婦関係が非常に悪化していたこと,離婚調停が申し立てられていたこと,別居生活も開始されていたことなどが,参考になりそうです。

 もっとも,離婚調停をしていたり,別居をしていれば,不貞行為にならないというというわけではないことに注意しましょう。

 婚姻関係が破綻していたかどうかは,不貞行為に至るまでのすべての事情を総合的にみて判断することになります。

事案の概要
  1.  上告人と夫Aとは昭和42年5月1日に婚姻の届出をした夫婦であり,同43年5月8日に長女が,同46年4月4日に長男が出生した。

  2.  上告人と夫Aとの夫婦関係は,性格の相違や金銭に対する考え方の相違等が原因になって次第に悪くなっていったが,夫Aが昭和55年に身内の経営する婦人服製造会社に転職したところ,残業による深夜の帰宅が増え,上告人は不満を募らせるようになった。

    夫Aは,上告人の右の不満をも考慮して,独立して事業を始めることを考えたが,上告人が独立することに反対したため,昭和57年11月に株式会社○○(以下「○○」という)に転職して取締役に就任した。

  3.  夫Aは,昭和58年以降,自宅の土地建物を○○の債務の担保に提供してその資金繰りに協力するなどし,同59年4月には,○○の経営を引き継ぐこととなり,その代表取締役に就任した。

    しかし,上告人は,夫Aが代表取締役になると個人として債務を負う危険があることを理由にこれに強く反対し,自宅の土地建物の登記済証を隠すなどしたため,夫Aと喧嘩になった。

    上告人は,夫Aが右登記済証を探し出して抵当権を設定したことを知ると,これを非難して,まず財産分与をせよと要求するようになった。

    こうしたことから,夫Aは上告人を避けるようになったが,上告人が夫Aの帰宅時に包丁をちらつかせることもあり,夫婦関係は非常に悪化した。

  4.  夫Aは,昭和61年7月ころ,上告人と別居する目的で家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てたが,上告人は,夫Aには交際中の女性がいるものと考え,また離婚の意思もなかったため,調停期日に出頭せず,夫Aは,右申立てを取り下げた。

    その後も,上告人が○○に関係する女性に電話をして夫Aとの間柄を問いただしたりしたため,夫Aは,上告人を疎ましく感じていた。

  5.  夫Aは,昭和62年2月11日に大腸癌の治療のため入院し,転院して同年3月4日に手術を受け,同月28日に退院したが,この間の同月12日に○○名義で本件マンションを購入した。

    そして,入院中に上告人と別居する意思を固めていた夫Aは,同年5月6日,自宅を出て本件マンションに転居し,上告人と別居するに至った。

  6.  被上告人は,昭和61年12月ころからスナックでアルバイトをしていたが,同62年4月ころに客として来店した夫Aと知り合った。

    被上告人は,夫Aから,妻とは離婚することになっていると聞き,また,夫Aが上告人と別居して本件マンションで一人で生活するようになったため,夫Aの言を信じて,次第に親しい交際をするようになり,同年夏ころまでに肉体関係を持つようになり,同年10月ころ本件マンションで同棲するに至った。

    そして,被上告人は平成元年2月3日に夫Aとの間の子を出産し,夫Aは同月8日にその子を認知した。

判旨
  1. 主文
    省略

  2. 理由

    1.  甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において,甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは,特段の事情のない限り,丙は,甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。

    2.  けだし,丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは,それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって,甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には,原則として,甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
       そうすると,本件の事実関係の下において,被上告人が夫Aと肉体関係を持った当時,夫Aと上告人との婚姻関係が既に破綻しており,被上告人が上告人の権利を違法に侵害したとはいえないとした原審の認定判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。

    3.  所論引用の判例(最高裁昭和51年(オ)第328号同54年3月30日第二小法廷判決・民集33巻2号303頁)は,婚姻関係破綻前のものであって事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
       よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 事案の概要,判旨は,そのまま全文を引用したものではなく,読みやすいように編集してあります。