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  • 執筆者の写真弁護士 平井 優一

離婚に伴う慰謝料はいつから遅延損害金が発生するか

 2022年1月28日,ある夫婦の離婚事件の最高裁判決があり,裁判所のウェブサイトに公表されました。

最判令和4年1月28日(令和2年(受)第1765号 離婚等請求本訴,同反訴事件)
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出典:裁判所ウェブサイト(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/885/090885_hanrei.pdf 2022年1月29日最終閲覧)


 判示事項は,離婚に伴う慰謝料の遅滞時期です。

 婚姻関係が破綻してから離婚が成立するまでに,ちょうど,平成29年に成立した改正民法(民法の一部を改正する法律)施行を跨いだ関係で,遅滞時期をいつとみるかによって,新法が適用されるか,旧法が適用されるかが問題となってしまったようです。


 従来,遅延損害金の利率は,年5%でした。100万円を銀行に預けておくと,1年で5万円の利息がつく計算です。


 これに対し,改正後の民法では,遅延損害金の利率が,3%になったため,新法が適用されるか,旧法が適用されるかで,2%もの違いが出てきます。

 例えば,200万円の慰謝料を命じられて,5年間支払いを怠っていたら,遅延損害金だけで20万円もの差がつきますから,大きな違いです。


 新法が適用されるか旧法が適用されるかは,どうやって区別されるのでしょうか。


 民法の一部を改正する法律附則15条には,「施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率については,新法第404条の規定にかかわらず,なお従前の例による。」と定められています。

民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)
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出典:法務省ホームページ(https://www.moj.go.jp/content/001264450.pdf 2022年1月29日最終閲覧)


 「新法第404条」というのは,利率を3%と定めている規定で,「従前の例」というのは,従来の利率(5%)のことをいいます。

 つまり,施行日前から利息が生じていれば,施行日後も旧法が適用され,5%,施行日後に利息が生じたのであれば,新法が適用され,3%になるということです。


 本件では,離婚に伴う慰謝料の遅延損害金(上記の附則15条にいう「利息」のこと。)がいつから発生するかについて,第二審の大阪高等裁判所は,①婚姻関係が破綻したときからと解釈し,最高裁は,②離婚が成立したときからと解釈しました。

 判決を読むと,婚姻関係が破綻したのは,改正民法の施行日である令和2年4月1日よりも前のようです。

 ですので,①と解釈すると,利率は5%,②と解釈すると,利率は3%ということになるわけです。


 離婚に伴う慰謝料は,不法行為に基づく損害賠償請求権です。

 不法行為は,不法行為があったときから遅延損害金が発生すると言われることがよくありますが,大阪高裁は,婚姻関係が破綻したときに不法行為があったと解釈し,最高裁は,離婚成立時に不法行為があったと解釈しました。

 こう書くと,大阪高裁のほうが自然な考え方のようにも思われますが,どうでしょうか。


 最高裁の判決文を読むと,その答えが書いてあります。


 「不法行為による損害賠償債務は,損害の発生と同時に,何らの催告を要するこ

となく,遅滞に陥るものである」とのことです。


 どこにも,「不法行為があったとき」とは書いてありません。「損害の発生と同時に」,つまり,損害が発生したときに遅延損害金が発生すると説明しています。

 判決で引用されている最高裁判例(最判昭和37年9月4日)でも,「右賠償債務は,損害の発生と同時に,なんらの催告を要することなく,遅滞に陥る」と説明しています。


 通常は,不法行為がなされたときに損害も発生することが多いので,遅延損害金が発生する時期を「不法行為があったとき」と覚えておいても,あまり問題になることはないのでしょう。

 しかし,不法行為の時期と損害の発生時期が同じとは限らないことを肝に銘じておくべきです。


 本判決は,離婚に伴う慰謝料の支払義務は,離婚成立時から遅滞に陥るということを明らかにするという意義を有していますが,併せて,不法行為の遅滞時期を改めて確認しておきましょう。

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