合憲決定
本日,夫婦別姓を認めない民法750条とこれを受けて定められている戸籍法74条1号は,憲法24条に違反しないという最高裁大法廷決定がありました。
これについては,3人の裁判官の反対意見が付されているほか,結論は多数意見に賛同するが,夫婦別氏の選択肢を設けていないことは憲法24条に違反するという裁判官の意見も付されています。
結論としては,15人の裁判官のうち,11名が「合憲」,4名が「違憲」という判断をしました。
合憲の理由
合憲の理由の概要
合憲の理由について,最高裁は,「平成27年大法廷判決の趣旨に徴して明らかである」とし,それ以降の「女性の有業率の上昇」,「管理職に占める女性の割合の増加」,「その他の社会の変化」,「選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加」,「その他の国民の意識の変化」といった諸事情を踏まえても,「平成27年大法廷判決」の判断を変更すべきとはいえないと説明しています。
平成27年大法廷判決について
平成27年大法廷判決は,夫婦同氏制が憲法24条に違反しない理由として,次のような理由を挙げていました。
夫婦同氏制は婚姻を直接制約するものではない
氏には,夫婦であることを対外的に公示し識別する機能がある
夫婦が同氏であることによりこれと同氏である子が嫡出子であることを示すことができる
家族の一員であることが実感できる
夫婦が同氏であれば,子は,いずれの親とも氏を同じくすることによる利益を享受しやすい
婚姻によって氏を改めることになる者が被るアイデンティティの喪失感などの不利益は,旧姓の通称使用が広まることにより一定程度は緩和される
平成27年大法廷判決では,憲法24条の問題の他にも,憲法13条違反や14条1項違反も問題になりましたが,いずれも違反しないという判断が示されました。
今回の決定は,この平成27年大法廷判決を変更する必要はないと考えているのです。
問題の解決方法
上記のように,最高裁は,夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は憲法に違反しないという判断を示しましたが,この問題と,「夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当か」という問題は次元が異なると説明しています。
つまり,現行の法律が憲法に違反するかどうかという問題は,夫婦の氏についてどのような制度にするのが良いかという問題とは別問題であるというのです。
最高裁は,「この種の制度の在り方は(中略)国会で論ぜられ,判断されるべき事柄」であると指摘しており,夫婦別姓を認める形で法改正するかどうかは,国会で議論をして決めるべきだというのです。
これが,最高裁の多数意見です。
反対意見
上記のような多数意見に対し,夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は憲法24条に違反するので,夫婦別姓での婚姻届を受理するよう命ずべきという反対意見も出されました。
ここでは,宮崎裕子裁判官と宇賀克也裁判官の反対意見を少しご紹介します。
宮崎裕子裁判官と宇賀克也裁判官は,平成27年大法廷判決が挙げた上記1について,一方の配偶者が氏の変更を受け入れなければ婚姻ができないというのは,婚姻するについての意思決定を抑圧し,自由かつ平等な意思決定を妨げるのであるから,婚姻を直接制約することになると指摘しました。
また,平成27年大法廷判決が挙げた上記2から5については,夫婦同氏制の合理的根拠とはいい難く,氏に,家族の呼称としての意義があるとしても,それは憲法上の要請ではなく,家族形態の多様化という現実などから,夫婦同氏を強制することに合理性があるとはいえないとし,平成27年大法廷判決が挙げた上記6については,旧姓の通称使用の拡大は,夫婦同氏制自体の不合理性を浮き彫りにするものと指摘しました。
さらに,日本政府は,国連の女子差別撤廃委員会から,女子差別撤廃条約に基づき,夫婦同氏制の法改正をするようにとの正式な勧告を3度も受けているのだから,もはやこれを放置することが許される状態ではないという意味のことも指摘しています。
おわりに
今回の決定について駆け足で見てきましたが,できれば,夫婦別姓を望む方の希望が一日も早く叶うことを願いつつ,それが叶わないにしても,いつまでも放置せず,国会での議論を急ぐべきです。
決定書は,裁判所のウェブサイトに公表されていますので,内容の詳細は,決定書を確認していただければと思います(参考1)。
参考(書籍・雑誌,ウェブサイト等)
裁判所 - Courts in Japan 「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90412 2021年6月23日最終閲覧)
Comments