夫婦同居義務
夫婦同居義務をご存知でしょうか。
民法752条は,「夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない。」と定めており,これが,夫婦同居義務の根拠となっています。
しかし,関係が悪化した夫婦の多くが,離婚前に別居しています。
これは,違法なのでしょうか。どんなに関係が悪くても配偶者と同居し続けなければならないのでしょうか。
夫婦同居義務違反の効果
夫婦同居義務に違反して別居をしていると,離婚原因としての「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)に該当したり,婚姻費用(民法760条)の支払を受けられなくなったりするのではないかという心配が生じます。
しかし,家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス・DV)の被害から逃れるためには,別居しないわけにはいきません。
また,夫婦同居義務は,配偶者を束縛し,支配をするための手段ではありません。
そこで,夫婦同居義務と別居との関係をどのように考えればいいでしょうか。
夫婦同居の調停・審判
ここで,配偶者に別居をされた場合,同居を求めるための法的手続として,家庭裁判所に対し,夫婦同居の審判を申し立てる方法があります(家事事件手続法39条別表第二第一号,なお,調停につき,同法244条)。
これは,同居義務の存在を前提として,同居の時期,場所,態様等の具体的内容を定めるための手続で(最高裁大法廷決定昭和40年6月30日(参考1)),審理の結果,同居を命ずることが相当の場合は,「同居せよ」と命じられます。
これに対し,同居を命ずることが相当でない場合には,申立てが却下されます。
申立ての却下は,「別居せよ」と命じるものではありませんが,結果的には,別居が認められたようなものです。
同居を命ずることが相当でない場合とは
では,同居を命ずることが相当でない場合とは,どのような場合をいうのでしょうか。
それは,同居を求めることが権利の濫用に当たる場合,同居を拒む正当な理由がある場合,婚姻関係が破綻している場合などと理解されています。
これらの場合に該当するかどうかは,事案によりますが,裁判例によると,別居原因,離婚意思の有無・強弱,婚姻関係破綻の有無・程度,同居再開の可能性などのさまざまな要素を考慮して判断しているように思われます。
家庭内暴力から逃れるための別居の場合
家庭内暴力の事案では,加害配偶者が,被害配偶者に対し,夫婦同居義務を持ち出して束縛・支配をすることが考えられます。
しかし,夫婦同居義務は,人を束縛・支配するための手段ではありません。
家庭内暴力は,同居を拒否する正当性を基礎づける大きな理由となるでしょう。
別居の際の注意点
夫婦には同居義務がありますので,家を出るにあたっては,別居に伴うリスクを考えておくに越したことはありません。
特に,家庭内暴力の加害者配偶者は,被害配偶者を縛り付けておくために,同居義務を持ち出すかもしれません。
そのような場合に備えて,同居義務についての理解を深めておきましょう。
参考(書籍・雑誌,ウェブサイト等)
裁判所 - Courts in Japan 「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=56260 2021年6月26日最終閲覧)
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